今夜あなたの夢を見ます

自閉症スペクトラム障害と統合失調症を抱える私が、唯一心的どすっぴんでいられるところ。

掘り出し物レビュー①

 

【歩く花/THE BLUE HEARTS
この曲を、THE BLUE HEARTSの曲としていいのかどうか、私にはわからない。 THE BLUE HEARTS名義のラストアルバム「PAN」に収録されているのだから、当然その名義に嘘偽りは無いに決まっている。しかし、もう既に演奏者の名前は様変わりしていた。 「PAN」には13曲が収録されているのだが、ご丁寧なことに、歌詞カードでは一曲一曲に説明書きが添えられてある。 どれもこれも、“THE BLUE HEARTS”として成立している曲ではないのだ。
私がこのアルバムを購入した時、既にTHE BLUE HEARTSは解散していた。遡って言うなれば、私が彼らを知った時ですらもう解散していたのだが、私は彼らの音源を買い集めるうちに、一つだけ決まりを作っていた。 「ラストアルバムは、最後まで買わない。」と。
それを守って彼らの時間軸に沿ってアルバムを買い、聴き込んでいった。当然、“ラスト”は訪れた。 その頃私の行き着けだった京都市内のCDショップで手に入れ、漸く念願叶った筈なのに、怖くてなかなか聴くことができなかったのをよく覚えている。私の中でもTHE BLUE HEARTSが終わってしまう。まだ生きている彼らの活動に、私は自ら終止符を打つのか―。 そう思うと怖くて怖くて、開封するのがやっとだった。
しかし、聴かないわけにはいかない。 断崖絶壁でびくびくしていた私は、遂に谷底に向かって飛び降りた。 一曲目「ドラマーズ・セッション」を聴きながら、歌詞カードをめくる。そこにあったのが、その曲に関わったアーティスト達の名前。一変した、メンバーの名前。それからのことはよく覚えていない。だから、この「歩く花」を最初に耳にした時の感情も過去に置き去りにされたままだ。思い出すことも無い。 正直に言うと、このアルバムは滅多なことが無い限り聴く気にならない。 私の中でこの作品集がTHE BLUE HEARTSのものではないからだろう。これは単なる、ソロミュージシャン四人のコンピレーションCDなのだ、私の中では。聴けば、その四人のミュージシャン達がひとつになって作り上げた曲と嫌でも比較してしまう。どっちがどうだ、なんてこと私には言えないが、なんだか物悲しくなる。
その例外が、「歩く花」。 何度聴いても、それが何度目であっても、初めて聴いた時のような―それも想像でしかないが―感覚に包まれる。時には、涙をこぼす。 悲しいわけじゃない。かと言って嬉し涙でもない。ならば何かと言うと、語弊が生じても可笑しくないくらいにありふれた表現だが、“安心感”に因るものだろう。 なんだかほんわかしていて、暖かい。思わず笑みが漏れるような。 だけど何故か涙が止まらないケースもある。それが何に起因するものなのかは、今の私にはわからない。 ただ、優しくなれる気がする。今の自分なんか比べ物にならないくらいに、優しく。もうそんなこと無理だと打ちひしがれている時であっても、まだいける、まだ私は大丈夫だ、と思ってしまえる。それが吉と出るか凶と出るかは実際わからない。決して良くない方向に転じたことだって今まであった。 それでも、聴いては自身に期待し、それを行動に移そうと躍起になる。 “媚薬のような歌” そう名付けよう。自分自身に惚れてしまう、困った歌だ。
#歩く花 #thebluehearts #panf:id:fuuka1951ck:20171014201006j:image