今夜あなたの夢を見ます

自閉症スペクトラム障害と統合失調症を抱える私が、唯一心的どすっぴんでいられるところ。

掘り出し物レビュー⑤

 

【キミのかほり/syrup16g
昨年の秋、短い期間ではあったが、私は精神科の閉鎖病棟に入院していた。それは『自分は大切な人達と大切なものを分かち合って生きている』と心の底から思えるようになっていた矢先の出来事で、そのことで阿呆のように舞い上がっていた私が気付いた頃にはもう手遅れだった。既に、誰も、何も、残っていなかった。
それは錯覚かも知れない。単なる勘違いかも知れない。それでも、その時の私は“孤独”だけを感じ、全てのあらゆる糸は切れ、現実から逃れようとした。大切なものを自ら壊した、という現実から。
何もかもを失ったと感じて以来、私がこの曲を聴く回数は激増した。ふとした瞬間に「キミ」という名の“正常な社会”が持つ特有のかおりを思い出しては後悔や自責に頭を抱えたり、時には離れてしまった大切な人を「キミ」に置き換えて記憶を辿ったり。何とも非生産的で無駄でしかなく、寧ろ自問自答に駆られて尚更沈んでいってしまうようなこの行為ばかり繰り返していた。今から思えば、それは一種の自傷行為だったのかも知れない。だから毎日飽きもせず、この一曲から離れようとしなかったのだ。
本当のことだけが知りたくて、だけどその為には引き裂かねばならず、しかしそんなこと到底無理で、引き返そうとしても誰に許しを乞えばいいのかすらわからない。  そんなちっぽけな世界で悩み込んでいる自分に苛立ち、『忘れよう』『忘れなきゃ』と自己暗示をかける。最後に何が残る?
嘗て当たり前だった“日常”には、「キミ」のもとへは、もう引き返せないのだろうか。まだ、引き返せないのだろうか。
そんなものに一喜一憂させられぬよう、踊らされぬようには、忘れるしか手立ては無いのだろうか。
この曲は、誰しもが感じるであろう感覚、或いは感情を表しているように思う。コントロール不可能で、どうしようも無く行き場の無い個々の気持ちには矛盾も付き物だろう。
そのもやもやを解消できるような曲ではないと思う。そんなことの為の曲ではないと。ヒトは悩んで生きていくものなんだろう。悩み、考えた末にしか結論は出てこない。結論を出したいのならば、悩まなくてはならない。これは、たった一観点だけにしか通用しないかも知れないが、いい意味で“悩ませてくれる曲”と言える気がする。
最初は「切ない曲だなぁ。」程度かも知れないが、聴いていくうちにどんどん熟れていく。この曲とともに熟していくことができれば、個々の心の外側から内側に向けて射し込む光は温かな光にすらなりえるだろう。
#キミのかほり #syrup16g #delayedf:id:fuuka1951ck:20171014201703j:image