今夜あなたの夢を見ます

自閉症スペクトラム障害と統合失調症を抱える私が、唯一心的どすっぴんでいられるところ。

掘り出し物レビュー⑥

 

【四畳半/GADORO】
ゴリゴリのHip Hopよりもメロウなそれに心惹かれる私にとって、「フリースタイルダンジョン」は興味の対象外だった。ただ、相方が熱心に視聴している傍で、字幕を追い掛けては「みんな凄いなぁ」とかぼんやり思う程度に過ぎなかった。しかしながら、そんな中でも好きな声の持ち主が現れると勿論ディスプレイを注視するし、且つ韻の踏み方が私好みだったりすると、秋の空よろしく移ろいやすい心をもつ私の中でその存在は興味の対象でしかなくなる。
それがGADOROだった。
声も歌い方も見事に私の胸ぐらを掴んで、離す素振りなど一向に見せない。「ハートを射抜いた」なんて生半可な表現は全くそぐわない、もっと横暴で確実な出会いだった。
それから暫くして手にした、GADOROのアルバム「四畳半」。YoutubeでMVを視聴済みだった「クズ」が目当てで購入した。今までの個人的な経験から「Hip Hopのアルバムは捨て曲も多く収録されている」「だからクズが聴けたらそれだけでいい」と考えていたものの、その予想は裏切られた。―期待以上の作品だった。
GADORO自身がTwitterで発言していたように、どの曲も歌詞が突き刺さってくる。歌い上げられている様々な色をまとったリアルな言葉たちが、いちいち感情を揺さぶる。勿論アルバムの中には、私の苦手なゴリゴリの曲もある。それでも、全部聴きたい、もう一度聴きたい、もっと聴きたい―そう思わずにはいられないくらい、受け止めるのが心地よい言葉たちが並んでいる。
歌詞に物足りなさを感じる人も中にはいるだろう。「自分のことしか歌っていない」と。しかしそれが、それこそが、GADOROの“今”であり、歌いたかったことなのだと思う。今日、つまりこの「四畳半」をリリースするに至るまで、GADOROが積み上げてきたものがひとつひとつ鮮明に描かれているような気がするのだ。そして同時に、それはきっととても幸せなことなのではないかと思う。自分自身の内に秘めているものを、外界に一寸の狂いも無く吐き出し、表現することは容易ではない。自分の中でくすぶっているものが何なのか判然としない人や、その正体に気付いてはいても上手くさらけ出せない人の方が、圧倒的に多いと感じているのは私だけではないだろう。
最後に、自分のスキルを磨く為の手っ取り早い方法の一つは、他人を真似ることだろう。それは何もラップに限定されることではない。GADOROがチプルソを意識的に真似ていたのかは私にはわからないが、もし仮にそうであったとしても、何故今そのことでとやかく言われるのか理解できない。「チプルソの物真似 今じゃとっくに超えてるその壁」とGADORO自身が歌っている時点で、この話題をわざわざバトル上に持ち出す必要など無いのではないだろうか。「上手くなりたい」、その一心で今まで過ごしてきたであろうGADOROの一通過点に過ぎないのに。つまり、本当に過去にチプルソの真似をしていたとしても、それは向上心所以のもので、それが現在のGADOROを作り上げた一つのピースとなっているのだ。そう考えると、「真似た/真似ていない」の論争に巻き込まれない人間なんて、どこにもいないと思う。
唯一の不満は、オフィシャルのネットストアで買えば「未来」という未収録曲も入手できたということに今日になって気付いたこと。ま、Youtubeのお世話になることとしよう。 #四畳半 #gadorof:id:fuuka1951ck:20171014201814j:image